猫背は、ただ背中が丸まるだけの問題ではありません。猫背に引っ張られ、または押し出される形で他の部位も歪ませ、よりその問題は複雑化します。今回のテーマであるストレートネックも、その内の一つです。本記事では、猫背とストレートネックとの関係性、その実害、改善方法と予防法まで徹底的に解説します。
猫背・ストレートネックの基礎知識

正常な首の状態とは
正常な頚椎(首の骨)は、アルファベットのCのような形状で、緩やかに前方へカーブしています。これにより頭が身体の真上に位置し、必要最小限の力で重たい頭を支え、首や肩の筋肉の負担を減らしています。頭の重さ(平均5kg前後)を支える絶妙で繊細な構造です。首のカーブが失われると、当然、筋肉に過度な負担がかかり、痛みや不快感を引き起こします。
ストレートネックと猫背の関係性
ストレートネックは、首だけの問題ではありません。首(頚椎)は脊柱の一部であり、首に変化が起きれば、他の脊椎にも影響が出ます。実際、ストレートネックになると、ほぼ同時に猫背や骨盤の歪みも出ている恐れが高いのです。多くの場合、良くない立ち姿勢や座り姿勢で猫背になり、次にストレートネックになるという順序で発生します。
一般的な猫背では、背中が丸まると同時に両肩が前に巻かれる形になります。この姿勢は、首の骨のC字カーブを失わせる方向で圧がかかります。猫背でいる時間が長くなるにつれ、次第に首のカーブが失われ、ほぼ直線状になるストレートネックに進行します。ストレートネックでは、首や肩の筋肉に過度の負荷がかかります。緊張し、痛みや不快感を引き起こします。
主な症状と危険性

初期症状
ストレートネックの初期段階では、自覚症状がほとんどありません。しかし、徐々に以下のような症状が現れ始めます。
首こり、肩こり
ストレートネックによって首や肩の筋肉が常に緊張状態となり、こりと不快感を引き起こします。特にスマートフォンやデスクワークなど、長時間の前屈み姿勢の後に症状は顕著になります。
背中の張り
首や肩が頭の重さを十分に支えられないシワ寄せは、背中の筋肉にやって来ます。首こり、肩こりと併発する形で背中も張り、こりと不快感を生じさせます。背中の硬直は、呼吸を浅くし、全身の血流を悪くし、末端の冷え、体温の低下、内臓機能の低下などをもたらします。
姿勢が崩れる
順番としては、猫背からストレートネックに至るケースが多いです。ただこのストレートネックも、姿勢を悪くさせる要因になります。ストレートネックでいると、首が前に突き出ます。その首に引っ張られる形で、背中もまた丸まるのです。猫背がストレートネックを作り、ストレートネックが猫背を助長させる悪循環です。
放置して悪化すると起こる症状
ストレートネックを放置して症状が悪化すると、以下のような症状が現れます。
頭痛、めまい
首、肩の硬直は頭部への血行を阻害し、頭部を硬直させ頭痛の原因になります。また首には、多くの神経が束で通っています。ストレートネックにより神経が圧迫されると、頭痛やめまいなどの症状を引き起こします。
腕のしびれ
ストレートネックが進行すると、頚肩腕症候群と診断される状態になることがあります。これは首や肩周辺の筋緊張が原因で、腕に痛みやしびれが生じる状態です。一般的に、脳障害によるしびれでは右半身/左半身全般に症状が出ると言われていますが、必ずしもそうとは限りません。脳障害では早急の医学的対応が必要になるので、この症状が出たら早めの受診を推奨します。
首、肩、背中、腰の痛み
初期症状での硬直が進行すると、こりが強くなって痛みを生じさせます。
目に見える姿勢の変形
少し姿勢が悪い人と、背中や腰が90度も曲がっているお年寄りとは、地続きでグラデーションです。初期段階での姿勢の崩れは、進行すれば目に見えて背中や腰が曲がっている人になります。
生活習慣の中にある原因

長時間の前屈み姿勢
パソコンやスマートフォンの長時間使用など、前屈み姿勢が続くことでストレートネックのリスクが高まります。特に、モニターの高さや椅子の高さが適切でないと、首や肩に過度な負担がかかります。また本や新聞を読む、料理や食器洗いなどの家事、縫い物、工作など、前屈みで行う作業は多いです。自分の一日の生活を顧みて、どれくらい前屈みでいるかを考えてみてください。
運動不足
運動不足により筋力が低下すると、正しい姿勢を保つための機能が衰え、猫背やストレートネックになりやすくなります。特に体幹の筋肉が弱いと、姿勢を整えるのが難しくなります。
不適切な睡眠
睡眠は、一日の活動で硬直した筋肉をゆるめるリセットタイムです。睡眠時間が不十分、眠りが浅い、などの問題があると、背中も首も十分に回復できないまま次の日を迎えます。そして日中の活動でまた硬直を強め、事態が悪化します。また枕の高さや形が合っていないと、回復時間であるはずの睡眠中に硬直と変形を強めてしまうリスクがあります。枕が高すぎると首が前方に突き出てしまい、低すぎると後ろに引かれます。
ストレス過多
ストレスは、全身の筋肉を硬直させます。前屈み姿勢の負担による筋硬直と合わさり、その事態をより深刻化させます。また睡眠の質を下げてしまえば、上記の『不適切な睡眠』の原因にもなります。
セルフチェックとセルフケア

猫背とストレートネックのセルフチェック
猫背は見た目で明らかに判りますが、ストレートネックは首の骨の変形で、外側から見た自己判断は難しいです。ただ下記のチェックを行えば、ストレートネックの可能性を判断できます。
猫背、ストレートネックの同時セルフチェック
姿勢を良くしようと意識せず、普通に立った姿を横から鏡で見るだけでも、明らかな猫背はすぐに自分で判ります。
また壁に背をつける方法も、手軽でお勧めです。かかと、背中、後頭部を壁に付けて立ってください。この時、アゴは引いておきます。強い変形がなければ誰でも出来ますが、もしもこの姿勢が辛ければ、普段は猫背で過ごしているという判断ができます。そして首の部分が辛いようなら、普段の首は前に出ているということ。ストレートネックの可能性も濃厚です。
ストレートネックのセルフチェック
自分の横向きの上半身を撮影します。そして、耳たぶと肩が一直線上にあるかを見ます。耳たぶが前に出ている場合、ストレートネックになっているかもしれません。
猫背を治す意識改革
背中の骨が曲がって戻らない状況では話が別ですが、姿勢は意識一つで変わります。
キーワードは、重心です。立っている時、足裏のどこに重心があるのか、それで姿勢の全てが決まります。結論から申し上げますと、正しい姿勢の正解はかかとの少し前の内側、脛の太い骨(脛骨)の真下です。
ここに重心を置くと、骨格で自然と立つ形になります。すっと背中が伸び、無理に背筋を伸ばす必要もありません。
では、猫背の人はどうなっているのでしょうか?例外なく、重心がこの正解から前にズレています。前にズレるから、腰を後ろに引いてバランスを取ろうとする。その形で力を抜くと、猫背になります。よく、「意識して姿勢を良くしても、気を抜くと猫背に戻ってしまう」と悩む人がいますが、この重心の間違いが原因です。
正しい重心では、逆に猫背になれません。力を入れて多少は前屈みになれますが、良い姿勢でいた方がよほど楽です。重心で姿勢の全てが決まるという意味が、伝わりましたでしょうか。
詳しくは、ご紹介する著書にあります。宜しければ、お手に取ってみてください。
こうして意識を変えて正しい重心をおく習慣だけでも、歪んだ骨盤が逆に引っ張られて、正しい位置に戻ってくれます。ただ骨盤を歪ませる硬直が強固だと、姿勢の意識だけでは足りないケースもあります。その場合には、以下でご説明するストレッチと筋トレもお試しください。
首、肩、背中のセルフケア
合間合間のお手軽ストレッチ
ここで本格ぶって複雑な手順をご紹介しても、多くの人は定着しません。気楽に簡単に考えてください。前屈み姿勢が続いて硬くなる訳ですから、ちょくちょくとリセットするのが基本です。そのついでに、首や肩の筋肉をゆっくりと伸ばすストレッチを行います。例えば背伸びをしたり、肩甲骨を回したり、首を回したりしてください。これだけで、かなり違ってきます。
姿勢改善、枕ストレッチ
日常生活の中で、背骨を逆に反らせる機会はほとんどありません。ラジオ体操のような背中を反らせる運動も良いのですが、ここではもっと簡単なストレッチをご紹介します。名付けて、『姿勢改善、枕ストレッチ』です。やり方は簡単です。枕を置いて、その上に仰向けで寝るだけ。後は体重と重力に任せておけば、背骨を逆に反らせてくれます。腰、背中の真ん中、背中の上と、三か所くらいに分けて、それぞれ2~3分も行えば十分に効果が出ます。
勿論、枕は例えばなので、他の物でも構いません。ちょうど良い感じに背中を反らせれば何でも良いです。座布団を折りたたんだり、バスタオルをくるくる巻いたり、しっくり来るものを見つけてください。少し痛いけれど気持ちよく、痛すぎないくらいの高さで行います。
大腰筋ウォーキング
全身の筋肉をほぐし、正しい姿勢を取るために必要な筋肉を鍛えるには、ウォーキングが一番です。良い姿勢で大股にハイピッチで歩くことで、必要な効果を万遍なく得られます。
コツは、足の付け根意識です。ほとんどの人は、足の付け根を股関節の高さでイメージしています。骨格で見ればその通りですが、実は筋肉で見ると大腿骨を動かす起点は鳩尾の辺りにあります。鳩尾から足が生えている、鳩尾から足を動かし出す意識で歩いてみてください。これは大腰筋ウォーキングと言って、素晴らしい健康効果をもたらします。その上で、スクワット、プランクなどの筋トレを並行させるとより効果的です。下記の画像は、「大腰筋ウオーキング」とは【疲れない!痛めない!体の使い方ビフォー・アフター手帖】(著 小池義孝)の1ページです。

気功、スワイショウで心身を整える
気功は、呼吸法と身体の動きを組み合わせた中国の伝統的な健康法です。ストレートネックや猫背の改善に効果的な気功の一つに「スワイショウ」があります。
スワイショウの実践方法
立位姿勢
まっすぐ立ち、足を肩幅に開きます。
腕の動き
両腕を体の前で交差させ、ゆっくりと上げていきます。
頭上での交差
腕を頭上まで上げ、そこで再び交差させます。
背中での交差
腕を後ろに回し、背中で交差させます。
繰り返し
この一連の動きを、ゆっくりと深い呼吸に合わせて10回程度繰り返します。
スワイショウを行うことで、首や肩の筋肉がほぐれ、姿勢の改善にも効果があります。また瞑想に似たリラックス効果があり、心身を同時に整えられます。
予防と改善のための生活習慣
良くするのも悪くするのも、毎日の積み重ねです。こんな風に、毎日の生活をリデザインしてみてください。

予防のための生活習慣
正しい姿勢意識
この記事の中でお伝えしたように、正しい姿勢も猫背も、体重を乗せる重心で決まります。良い姿勢を取るのが楽な正しい重心を意識して、たまに確認するようにしてください。
前屈み姿勢のリセット
長時間、前屈みでいる内に筋肉が固まります。ちょくちょくと姿勢を正して、ついでにストレッチも入れて、前屈み姿勢をリセットしてください。
運動不足にならない
あまりに運動不足になると、姿勢を維持する筋肉すら衰えます。また血行も悪くなり、筋肉も固まりやすくなります。在宅ワークの人などは特に、油断して運動不足にならないようにしてください。
ぬるま湯でお風呂に浸かる
38~39度の設定のお風呂に、連続で30分以上、浸かるようにしてください。温度設定が重要で、高いと逆に体が芯まで温まらなくなります。全身浴だと辛くなりますから、半身浴でも良いですし、寝そべるように背中が浸かって胸の前が出ている形でも良いです。30分以上で芯まで温まり、全身の血流が良くなります。
より良く睡眠をとる
睡眠の質と時間は、心身の健康に極めて重要です。間違っても、短い睡眠時間を習慣化させないようにしましょう。
ストレス状況下に自分を追い込まない
生活していれば、ストレスはあって当たり前です。人間の在り方として、確かに前向きさや我慢も大切です。ちょっとくらいの嫌なことで職を転々とするようでは、それはそれで人生が大変です。ただ心身の健康を蝕むレベルでストレス状況下に在り続ければ、全ての土台が壊れてしまいます。
真面目な人ほど、前向きで他人や環境に合わせる選択をしますが、「自分もちゃんと大切にする」という価値を組み込んで考え直し、バランスの良い環境を選んでください。
改善のための生活習慣
予防のための生活習慣は基本とする
予防と改善の間に、明確な境界線はありません。改善させるためには、悪化させない生活環境は基本です。予防のための生活習慣を基本において、その上で改善を考えてください。
ストレッチ、エクササイズを継続
ストレッチとエクササイズをルーティンにして、とにかく継続させてください。特に骨格の変形には矯正が必要となり、なかなか自然には治ってくれません。
メンタルを見つめ直す
人によっては、メンタルを深く見つめ直す必要があります。姿勢はメンタルの影響も大きく、落ち込んでいる、自信がない、目立ちたくない、という心境では無意識に猫背になります。深く落ち込んでいる時に無理に背筋を伸ばして胸を張ってみても、何だか違和感があって居心地が悪い。前屈みでいる方が落ち着く。こんな経験はないでしょうか?人によっては、猫背でいる方が居心地良く、逆に落ち着くという場合もあります。
こうした方は、メンタルの根本的な改革が必要になります。ただこのテーマは膨大ですので、『心クリック』でご自分に思い当たるものをご覧になってみてください。勿論、治療対象でもありますので、遠慮なくご相談ください。
→ https://kokoro.click 『メンタル専門ブログ 心クリック』
一義流気功での取り組み
姿勢の意識、歩き方の指導などを行います。また筋肉と骨格の状態を見て、緩める治療、必要であれば矯正も行います。ほとんどの方が、初回、その場で変化を実感します。猫背が治れば、慢性的な肩こりも自然と軽減します。
結論、まとめ
猫背がストレートネックを作り、ストレートネックが猫背を助長する。猫背とストレートネックには、相互作用の悪循環があります。ストレートネックと猫背は、現代社会において一般的な姿勢の問題です。これらは単なる見た目の問題ではなく、首の痛み、頭痛、めまい、腕のしびれなど、様々な身体的不調を引き起こします。
原因の多くは、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用、運動不足など、現代の生活習慣に深く関連しています。しかし日常生活を健康的に正し、適切なストレッチ、エクササイズなどで予防、改善も十分に可能です。
重要なのは、自分の姿勢や身体の状態への意識です。症状が軽い内に気付ければ、回復するのも楽です。全てを完璧にこなそうとするとプレッシャーになるので、少しだけでも取り入れて変化を感じてみてください。
正しい姿勢の維持は、単に身体的な問題を解決するだけでなく、肉体と精神の健康に全体的に貢献します。日々の小さな努力が、長期的には大きな変化をもたらします。

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